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                私の仕事について



カリグラフィーとの出会い

 

私が初めてカリグラフィーを発見したのはパリに住んで1年ほど経った頃、マレ地区の国立古文書博物館ででした。今まで見たことのない文字に一瞬にして魅了され、私が人生でやりたいことはこれだと宝物を発見したような気持ちでした。その日の夜興奮気味にカリグラフィーのことを友達に語ったのが懐かしいです。その次の日、偶然にパリ市内でカリグラフィーのお道具を扱うお店の前を通りかかり、これは運命だと感じすかさず店内に入り店主にカリグラフィーの学校がパリ市内にないかと尋ねました。そうしましたらこの直ぐ近くにあるよと学校までの道順を教えてくれました。

この店主と一年後再会し、のちに結婚し当時のメロディ グラフィック(1986年創業のパリの老舗文房具店)のオーナーだったお友達のエリックさんから2015年にお店を引き継ぐことになります。


 

カリグラフィーの学び

 

カリグラフィーの学校に通い出した9年前、フランス語がまだまだ覚束ない私にとっては毎回先生が言っていることが理解出来ず、電子辞書で言葉を調べ、緊張しながらのレッスンでしたが、それでもカリグラフィーを学ぶのが楽しくて仕方ありませんでした。

私は書道の師範を持っていますが、書道で使う筆とカリグラフィーで使う羽ペンや金属のペン先とでは書き方が全く異なります。

最初は3mm幅のペン先で真っ直ぐの線が書けず悔しかったのを覚えています。

書道と同じで一回で書けるようになるものではありませんが、ペン先に慣れてくると徐々に線の太さの強弱がコントロールできていきます。

静かに自分と向き合う時間は瞑想という感じで、集中していると数時間があっという間に過ぎてしまいます。

パリでは主に3カ所のカリグラフィーアソシエーションがあります。私は全部の場所で習いましたが、先生によって教え方、同じ書体でも文字の形が微妙に違うのが興味深く、1つの書体でも沢山のバリエーションがあることを学びました。

国によって書体の名前が違ったり、昔はカリグラファーによって書体の名前が違ったり複雑ですが興味深いところです。

今でも有名な先生のスタージュがあれば参加して学びを深めています。色んな先生に学ぶのは、私が生徒さんに教える時にとても役立ちます。


 

豊富なカリグラフィーの書体

 

書体の数は細かく分けると何十種類にもなりますが、現在のアルファベットの原型になったのは紀元前1世紀頃から石碑などに使われていたローマンキャピタル体です。

ロゴにもよく使われているクラシックでシンプルな書体です。石に彫る前の下書きは、平筆を水平に保ち筆をねじりながら線を引きます。その書き方が解読されたのは15世紀以降だそうです。シンプルなだけに1番難しい書体と言われます。

 

その後ヨーロッパ各地で様々な書体が発展していきます。

4世紀にはオンシャル体が作られ、聖書の写本によく使用されました。

8世紀になりカロリンジャン体という小文字体ができ、11世紀にはページにより多くの文字が書けるゴシック体が発展しました。

16世紀にイタリック体が生まれ、ローマ教皇書簡で使われるようになり瞬く間に広まりました。軽く繊細な書体は女性にも勧められました。 17世紀後半、イタリック体があまりにも流行したのでそれ以前の書体は使われなくなっていきました。

その後フランスの書体(ロンド体、バタルド体、クゥレ体、シャンセリエール体、ブリゼ体)が作られます。読みやすいロンド体やバタルド体は今もパリのレストランやパン屋さんの看板で見つけることができます。

 

18世紀になりイギリスで生まれた書体、アングレーズ体(日本ではカッパープレート体)は傾斜のあるエレガントな文字です。私は結婚式の招待状や宛名書きにこの書体をよく使います。

 

カリグラフィーを勉強しだすと街中のいろんな文字が目に飛び込んでくるようになります。蚤の市に行って昔の書類やポストカードを見てオリジナルの美しい筆跡を探すのも私の楽しみの一つです。


 

書体は大文字、小文字、数字と学んでいき、文字と文字の繋げ方、文字と文字のスペース、アラベスク(唐草模様のような装飾)の付け方、余白の取り方、紙の選び方、ペン先の選び方、色んな書体の組み合わせ、構図、文字の演出の仕方と、本当に奥が深い世界です。


 

カリグラフィーのお道具の歴史

 

カリグラフィーは、ペン軸とペン先、紙とインクというシンプルなお道具があれば始められます。ペン軸にペン先を取り付け、インクを付け足しながら書きます。

 

紙の歴史は今から約5000年前に遡ります。古代エジプトで草木の繊維を重ねて作るパピルス紙が発明されました。パピルス(PAPYRUS)は英語で紙(PAPER)、フランス語で紙(PAPIER)の語源となっています。

パピルスと同様に使われていたのが羊皮紙です。動物の皮を加工して筆写の材料としたもので、古代から文学や神聖な文書の筆写に使われてきました。羊皮紙は高価だった為、パピルスは手紙や下書きのような日常の書き物によく使われました。

パピルスは中国から紙の製法が伝わるとやがては生産されなくなりました。

 

紙は1264年、アジアからシルクロードを通ってヨーロッパにたどり着きました。

滲み防止にデンプンを使っていたためにヨーロッパの気候には合わず虫食いにあってしまいました。その代わりに開発されたのが、動物の皮を煮込んで出たゼラチンを使った紙です。

使い古した布を叩いて細かい繊維にしてから紙にするまでの工程は1800年まで機械が発明されるまで手作業で作られていました。

現在では色付きの紙、質感が違うもの、など沢山の選択肢があるので書き味を試すのは楽しい作業です。

カリグラフィーに適しているのはなめらかな紙です。練習用には80g程の薄い紙を使えば、下敷きのガイドラインが透けて見えていちいち線を引く必要がありません。

作品用には重さ250g, 300gの水彩画用の紙などが書きやすいです。

艶のある紙はインクがはじくことがあり、コットン紙は滲む可能性があります。

 

インクは昔から使われているクルミの殻を煮立たせて作られたものが滲まず細い線が出ます。

その他瓶入りのインクは微妙なニュアンスの色合いが揃っています。その他、ガッシュ(不透明水彩絵の具)、水彩絵の具、固形顔料は筆で水と混ぜ、ペン先に付けて使います。

 

つけペンの道具は、昔は葦というイネ科の植物の茎を使っていました。

6世紀頃からより柔らかい鳥の羽根が使われるようになり、ヨーロッパでは

よく知られた伝統的なペンです。

ガチョウ、カラス、雄鶏、アヒルの羽根が細かい書き込みに使用され、ハゲタカとワシの羽根が幅広い線の書き込みにと使い分けされていました。

羽根ペンは使っているうちに先が柔らかくなり、頻繁に削ることが必要になります。

19世紀半ばまで、ガチョウの羽の販売はヨーロッパの重要な産業でした。主な生産国はポーランド、リトアニアでした。1830年にイギリスは2400万羽、ドイツは5000万羽を輸入しました。イングランド銀行だけでも年間150万羽の羽を使用しました。

当時の学校では平均1人1日2本の羽根ペンを消費していたそうです。 

 

その後1830年頃に消耗の早い羽根ペンに代わって耐久性のある金属製のペン先が発明され世界に出回ります。ペン先の幅が細いものから太いもの、様々な形のペン先が工場で作られました。

私達は4年前に16000個のヴィンテージのペン先を買い取りました。昔のペン先は丈夫でしなやか、とても書きやすいものばかりです。

 

1950年ごろになるとボールペンや万年筆が徐々に普及していき、金属製のペン先は使われなくなっていきます。

 

お店で年配のお客様とお話する機会があると、「私が子供の頃は学校の机にインク壺が設置されていて、毎朝インクが足されてあなたが今書いているようにインクを付けて書いていたわ」とお話を聞かせてくれます。

 

現在のフランスの小学校ではノートを書くのに万年筆が使われています。それ以前の書き方を知らないフランスの子供たちですが、みんなカリグラフィーを見て興味を持ちます。

ペン先をインクに付けて書く、細い線と太い線の強弱がコントロールできるペン先は万年筆にはない特徴です。


 

プロになるまで

 

最初は手探り状態でお仕事をはじめました。カードの中にどうやったら真ん中に書けるのか、カードの余白はどれくらいか、間違えたらどうするのか、インクで紙を汚さないためにはどうしたらいいのか、知らないことばかりでした。大失敗して泣いたこともあります。

同じ失敗を繰り返さないために、これからプロのカリグラファーになりたいという方には沢山教えたいことがあります。

 

私の現在の主なお仕事

 

カリグラファーのお仕事は、お誕生日会の招待状、結婚式の招待状の宛名書き、パリコレの招待状、年末年始の挨拶状の宛名書きです。そのほか、ラブレターの代筆、亡くなった方の家族へのお悔やみの手紙、詩の代筆、賞状のお名前入れ(私の祖父は賞状書士でした)、映画の中の小道具としてのカリグラフィーなどです。最近では映画の為にカリグラフィーを書いている手元を撮影するというお仕事もありました。

年間トータルで約6000通書いています。

難しいのは一つしかない物に書くこと、間違えられないお仕事です。フランス語、英語、その他の言語で書く場合、日本人の私は一つ一つ文字を確認して書かないとスペルミスで作品を台無しにしてしまいます。インク一滴落としても駄目だしちゃんとインクを乾かさないと紙が汚れてしまうことになりかねません。

難しいお仕事ですが私が書いたものを見て感動して涙を流してくださるお客さまや、「人生で1番美しいプレゼントだった」とお店まで伝えに来てくださるお客様、私が書いたものを額に入れて飾ってくださっている方々にお会いすると、頑張ってきて良かったとやりがいを感じます。

   カリグラフィー アトリエ

住所 10 rue du pont Louis-Philippe 75004 Paris 

   "Melodies Grqphiques "  

 

   2階に上がっていただきます。
 

 

 

火曜日〜土曜日 午前11時から午後18時までの間で予約受け付けています。

  

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